専業主婦からの脱皮 :ノンフィクション・ドキュメンタリー

第3章:働くことに感謝!

とりあえず働いてみよう!

前回、穴があったら入りたい情けなくもみっともない醜態をさらして、 最後にはちょっと強気にでたりもしましたが、本音はかなり臆病で慎重になっていました。どんなに強がったって、 やはり人間あんまり恥はかきたくないし、なるべくなら痛い思いもしたくないですもんね、 本当のところは。かといって働かないと家計も厳しいし・・・

それで、出来そうな短期のお仕事をと思って、派遣会社に登録して、週末の土日のみのデモンストレーションをやる事にしました。

よくスーパーやデパートなどで試食や試飲を勧めているお姉さんやおばちゃんがいるでしょう。あれ! いわゆるマネキンってやつ。あれならと思ってやりました。

初めて担当したものは"牛乳の試飲"でした。前もって会社で説明を受けて練習をして、いざ出陣! 正直、かなり緊張しました。

それまで接客もやったことがなくそれでなくても失敗続きで、私に出来る仕事はあるのか?なんて思いっきりマイナス志向だったもので・・・

言われたスーパーに着くと、バックヤードに指定された""牛柄の段ボール箱"が置かれてあって、それを組み立てて、責任者の方に挨拶をして、イザ、本番!

始めは大きな声を出すのにちょっと勇気がいったけど、これはなかなかおもしろいものでした。そもそも牛乳はあまりにも身近で、牛乳を注いだ紙コップを差し出すと、お客様はたいてい受け取って試飲して下さって、

「意外と美味しいわねぇ、この牛乳」

なんてコメントと共に買って頂いて・・・お客様の反応がダイレクトに伝わってくる接客って面白いかもって思ってしまいました。

一日中立ちっぱなしはけっこう疲れるけど、牛乳は売れたしとりあえずはホッとしたってところかな。

デパートは想像以上に厳し〜

それからはチーズ、ワインをステップにして、デパートでの年末年始商戦の約2ヶ月間の短期アルバイト。

どうしてデパートにしたかって言うと、接客に興味を持ったから。それで何となく自分にも出来そうな気がして、軽く考えてやってみたはいいけど甘かったです。デパートって本当に大変。

覚える事がたくさんありすぎて、やる事もたくさんありすぎて。私はクリスマス雑貨コーナーにいたのですが(単純に可愛いから希望しました)、 商品を理解してお客様に対応して、レジをして包装をしてレジ金の計算をして(レシートとあっていなければならないのです。

私には凄く冷ややかなんだけど、私にとっては先輩の若い女の子には「〜ちゃん!」なんて、ちゃん付けで態度がコロッと変わって(そっかぁ、私はもう若い女の子じゃないんだぁ)と、 今さらながら自覚して・・・結局半月、そう2週間弱で私の再就職デビューは終わってしまいました。

これをお客様がいらっしゃらない時にすばやくやって、お客様がいらしたらたとえ途中でも諦める)、つり銭を両替に行って何か必要な物をきらしたらバックヤードに補充に行く。

あまり器用でない私は包装がなかなか上手く出来なくて、お客様が待っていると思うと緊張して失敗したりして余計に時間がかかったり、混んでくるともう大変パニックになりそうでした。まわりの皆さん、ご迷惑をお掛けしましたって感じです。

ベテランの店員さんは本当に凄いですよね。尊敬してしまいます。周囲に助けてもらって何とか乗り切った感じでした。感謝、感謝。

物覚えもあまりよくない私はきっと周りの足を引っ張っていたような気がするけど、幸い売り場の皆さんがとても良い方達だったので本当に救われました。

猛烈、バレンタインチョコ売り娘!?

年が明けて期間が終了すると今度は、別のデパートのバレンタイン商戦でのチョコレート売り娘!? 10日間、開店から閉店までひたすらチョコレートを売っていました。

家族はいつも協力的でしたが、この時ばかりは特に家族の協力なしには乗り切れなかったですね。 早起きして朝ごはんと夜のおかずも作って用意して、洗濯して、土日はみんなのお弁当(夫は土日仕事なので子供達だけなので)、 世の働くお母さん達はみんなそうして大変な思いをしているんでしょうけど。みんな協力的で助かりました。感謝。

何せ朝の9時〜夜の9時までだからとにかく一日が長い! おまけに最後3日間の混雑時期は2人体制になったけど、それまでは私のいるコーナーは私1人体制。 初めのうちはお客様もいらっしゃらなくてもう暇で暇で。それでも一所懸命呼び込んだり試食をしてもらったりして、けっこう売りました。 最後には担当の責任者の方にも喜んでもらえて、達成感はありました。

年齢制限は無視しちゃえ

しかもこの時は採用条件に30才位までって記載されているのを大幅無視! およそ8才もオーバーして雇ってもらいました(けっこう期日も迫って決まらなかったって事もあるのでしょうが)。

ここで読者の方にも一言。よく年齢制限が記載されてあるじゃないですか。 あれ、あんまり気にしなくてもいいと思いますよ。若さが限定の仕事ももちろんありますが、 そうでなければあれは一つの目安だから、多少年齢がオーバーしていても興味があったら諦めないで応募してみるっていうのも一つの手だと思います。 要はやる気があるかどうか、熱意があれば相手にも伝わるもんですものね。

働きはじめて見えてくるものもある

自分がこうして外に出て働き始めてみると、それまで何気なく通り過ぎていたあらゆる職業に目が行くようになりました。

スーパーのレジ、ファーストフード、デパートの中、ファミリーレストラン、あらゆる所で様々な人々が一所懸命に働いている・・・ あたり前の事だけど、どんな仕事でもそれぞれその分野の専門知識と経験、それに人間性が必要になってくる。 そう考えるとこれまで自分の想像力がいかに欠如していたかを、今更ながらに痛感しました。 そんな気持ちで接すると頑張って働いている人々に共感出来て、多少のミスや間違いがあっても広い心で対応する様になりました。 みんな頑張っているんだってね。偉いなってね。

フルタイム、パートタイム、自宅で、外で、みんな様々な形で働いています。中には私の様に不本意ながら仕方なくという人もいるでしょう。 働かなくても大丈夫、優雅に専業主婦をしているお友達を尻目に、
(まったく彼女は楽でいいわよね。稼ぎの少ない亭主を持つと苦労するわぁ)なんて心の中でぼやいている人もいる事でしょう。

恥ずかしいこと、情けない経験を経て今のわたしがある『時には開き直ろう』

穴があったら入りたくなる様な恥ずかしい事も情けない経験も、あってもいいんじゃないかなって、今ではそう考えます。

でももしかすると、そのお友達は働くという貴重で得がたい経験が出来ない分、損をしているかもしれません。だから働く事に多少不満があっても、 「これで良し!」と言葉に出して、そして自分を褒めてあげましょう。頑張っている自分を大いに認めて信頼してあげましょう。そうして"働ける"自分に感謝しましょう。

・・・なんて偉そうに言ったけど、ここだけの話、大きな声では言えないけど・・・あんまりあくせくしないで楽したいよな、ホントは! なんて陰で囁いている悪魔の私もいたりするのです。これは内緒でね・・・

つづく・・・

又吉 ちさと / 文+企画

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