松方はよく走る。通勤電車に飛びのるために、あるいはオフィスで仕事をこなすために。ダッシュが、松方の生活テンポそのもののようにも見える。 働くことへのたっぷりの熱意は、松方の目に出ている。力が強くて、インパクトがあるのだ。
『働きマン』の主題歌である『浮世CROSSING』にも、おなじスピード感があふれている。
ところどころ韻を踏むような、歌詞の音のつながりもテンポのよさを強調しているかのようだ。
この曲は、男性5人組のバンドであるUVERworldによるもの。
「自分一人が戦ってると思ってたんだよ それぞれ何か抱えて この平成と向き合っているんだ」
「今はもう迷うことはない」
と、いまの時代を生きる=戦う人々をひたすらはげましてくれる。
仕事がクライマックスに達して、男スイッチが入る瞬間の松方は圧巻だ。 まばゆい光に包まれ、風で髪がなびき、目力はいっそう強さを増す。この仕事っぷりはうらやましい面が多いにある。ふだんからてきぱきしている松方が、さらになんと3倍速で仕事をこなしていく。 忙しさのあまりパニックにおちいったりミスが多発したり、とはならないあたりがすばらしい。
対する田中の目には、そんな松方の向かう先はUVERworldがうたうように「浮世離れ」して映るのだろう。 「向かう場所」が一直線に仕事である松方と、仕事は人生のごく一部にすぎない田中では、抱えもっている世界が違うからだ。 おのおのの浮世の中に持つ常識は別の浮世では通じず、交差しているようにも見える。
松方によらず誰を相手にしてもマイペースを貫きとおす田中は、平成らしい浮世男なのかもしれない。一つのことだけに拘束されずにどこかへ向かいたいというような。
男、女というせりふはよく出てくるが、仕事をしていくうちにぶつかる「働くこと」の意味は、性別を超越して人としてどうなのかといった命題、普遍性のあるテーマを浮かびあがらせている。
松方にせよ、田中にせよ、彼らを見ていると誰もが思わず語りたくなってくるのではないだろうか。「働くこと」……人生へのスタンスについて。
「この平成生きぬくためには 死ぬ気で行かなきゃ」
とUVERworldの歌とともに走りつづける、働くことに信念を貫く松方の行方を見守りたい。
週刊誌の編集者として働く松方弘子(菅野美穂)は、仕事に没頭すると完全に寝食もろもろを忘れる。男スイッチが入って、仕事モード全開になるのだ。
新人編集者の田中邦男(速水もこみち)は松方と真逆のタイプ。仕事ばかりの人生はごめんだと、はっきりと口にする。田中の教育係としてコンビを組んだ松方が、働くことの意味を投げかける。
恵良美和 / 文
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